48 / 88
46
side. Subaru
「晃亮が中学卒業を期に、親が色々理由をつけて実家から追い出されて…」
必然的に俺も行くってなったら。
喜んで親達は、手に余る生活費とマンションを投げて寄越した。
ひと通り事情を話し終えると、遥サンは目を閉じ何か考え込んでいて。
円サンは真っ赤な顔で…必死に涙を堪えようとしていた。
きっと円サンのそれは、軽い同情なんかじゃなくて。
だからこそ必死で泣くのを我慢しようとしてくれてるんだと、解ってしまうから…。
「円サンは、“2年前”の事を…覚えてますか?」
「え…?」
質問された円サンは、疑問符を浮かべ難しい表情をしてしまったが…。
「2年前…」
思い当たる伏があるのか、
その話題には遥サンが食いついてきた。
「2年前って言えば───…円、お前が不良共に暴行された時じゃねぇのか?」
「あ、そか…」
言われて気付いたのか、納得して頷く円サン。
「そうです…俺はその日、その場所にいたんです。」
というか、あれは全部…俺が招いた悲劇なんだ。
クソみたいな親元を離れ、
自由と勘違いして荒れまくってたあの頃。
中学2年の俺は、反則的に強かった晃亮に憧れていて。
自分にだって何でも出来るんだと…
粋がってるガキだった。
2年前…
その日も自ら無謀な喧嘩を、仕掛けていった。
初めは5対1。
晃亮なら10人相手にしても、当たり前に叩き潰していたから。半分ならわけないだろうと…自惚れてた。
けど───…
仲間を呼ばれ、相手の数が10人を越え出した頃。
流石に焦り出すも時既に遅し。
一転して俺は、窮地に立たされていた。
薄暗い、通行人もまばらな路上裏。
建物の隙間、けれどすぐそこには大通りが見えるのに。
ここは獣道。
多勢に無勢の圧倒的な暴力の下、それらを咎めようとする者なんて誰一人いるわけがなく。
(俺、死ぬのか…)
たかが喧嘩で、初めて恐怖を抱いた瞬間───…
『え…?』
地に膝を付き、絶望する俺の前に立ちはだかる両足。
見上げたその姿は、学生服を纏った、
自分よりも小さくて、幼い顔をした…
ごく普通の少年だった。
『もうやめて。』
普通のヤツなら恐怖してしまう場面なのに。
ブレも無く、澄んだ声で強く言い放つ少年。
(何してんだ、コイツ…)
バカじゃねぇの…名前も知らない他人の癖に。
こんなつまんないヤツの為に、のこのこ出て来て…
『んだ、てめぇ?』
ほら、やっぱり潰される。
弱いなら、黙っていればいいんだ。
そうすれば、そのうち飽きられて。
相手にもされなくなるのに。
(なんでかまうんだよ…)
ソイツは俺よりひ弱そうな身体で。
必死になってギュッと俺を、その胸に抱いて隠し。
俺が受けるべき苦痛の殆どを、自らが受ける。
『バカ…逃げろって…』
呆れつつも声を振り絞り、
ソイツから離れようとしたら。
『大丈夫だよ。』
喧嘩なんて、無縁な生き物だろうに。
俺よりもボロボロになって、それでも笑ってて───…
その細い腕を、更に強く結ぶんだ。
ともだちにシェアしよう!