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side. Kousuke 「お前、晃亮だろ?」 夕暮れ、近所の小さな公園のベンチで。 ただ何もせず空を見ていたら。 軽トラックから降りてきた長髪の男に、 いきなり声を掛けられた。 「当たりだろ?調度良い、お前んとこ行く途中だったんだよ。」 馴れ馴れしく隣りにどっかり腰を下ろした男。 「誰だ、お前…」 煙草…ではなく、 棒のついた飴をくわえた男は飄々としていて。 何故だか俺を、 知っているような素振りだった。 「…………」 話す気も、相手にする気もない。 視線も定かじゃなく虚ろに。 とりあえず、息をするだけ。 「うちの弟が、世話になってるみてぇだな?」 突然、含みのある物言いで、不可解な台詞を口にする男。 反応もせず、無視を決め込んでも。 気にすることなくソイツは続けた。 「俺の名は遥、だ。」 「…………」 「弟の名は、」 マドカ。 思わず、目を合わせてしまう。 「篠宮 遥、円は俺の弟だ。」 ギロリと睨みつけても。 コイツ…はるかと名乗った円の兄という男は、全く動じない。 むしろ挑戦的に、不敵な笑みで返してきた。 この男、気にくわない…。 「うおっと…」 「…………」 避けられた。 しかも不意打ち至近距離の、顔面ストレートを。 今まで破られた事のないそれを。 初めて会うこの男は。易々と、やってのけた。 コイツ… 「たく、噂通りの狂犬振りだなぁ~。」 コレじゃには止められないだろうな、と。 さも楽しそうに、男は笑った。 「来いよ、コースケ。」 「…………」 「どうせ素直に他人の話なんざ、聞くようなタマじゃねんだろう?」 教えてやるよ、お前がどれだけ弱いのかを。 「フッ…」 ──────面白いな、コイツ。 返事の代わりに右拳を振りかざせば。 戦闘開始とばかりに、頭の中で鐘が鳴った。 ────… 「ハァ、ハァ…」 初めてだ。 喧嘩でこれほど息を荒くするのは。 「チッ…思ったより強ぇじゃねぇか。」 視界も聴覚も朧になるくらい、長い長い死闘の末に。 地に伏したのは、この男…─────と、俺自身。 今まで無敗を誇っていた割に、意外と悔しさもなく。 お互地面に寝転がり、傷だらけで天を仰いだ。 いつ振りだろうか? こんなにボロボロになったのは。 今よりもっとガキだった頃、理不尽にやられて以来… 負けた事も負けようと思った事もなかったが。 力には力。 そう信じて喧嘩に明け暮れた日々が、 この瞬間、何故か虚しくなった。のに、 どこか清々しいとさえも、思えた。 「はぁ~、ガキ相手にやられるとか…年かね俺も。」 よっ、と勢い良く起き上がり、その場で胡座をかく男。 そうは言っても、俺は未だに動く気にはなれず。 これは俺の、完全な敗北だった。 「さて…今日はこんくらいにしとくか?」 立ち上がったコイツを、身体を起こし見上げる。 「コースケ。」 外見もゴツいしデカいし、 少し垂れ目な所ぐらいしか似てない、円の兄。 …いや、俺の名を呼ぶ声がなんとなく。 円の響きに、似ているかもしれない。 「壊れそうになったら、また相手してやるから…」 “本当に大事なモンくらいは、テメェでしっかり見極めろよ?” そんなキザったらしい捨て台詞を背に、 やたら軽い足取りで… ソイツはあっさりと立ち去った。 「…………」 ひとり残された身体に、ぽつりと雨が落ちる。 だんだんと本降りと化すそれに打たれて、腕を抱き震えた。 なんだが、寒い。 「はる、か…」 円と遥。 同じような名の、同じような笑顔で接してくる兄弟。 「まどか…はるか…」 もうひとつ、 気になるモノが、増えた。

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