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side. Kousuke それでも良かった。 俺には昴がいた。 これからもそうなのだと、 当たり前に信じていた。 だから自分が壊れても。 構わないとさえ、思えた。 だが昴は、あの頃のように笑わなくなってしまった。 成長するにつれ、思い知らされる、 己の出生に冤罪を負わされ蝕まれ。 俺にだけ向けてくれたあの笑顔を。 いつの間にか、見せてくれなくなっていた。 誤った道に引きずり込んで、大人が嫌う事で抗う。 どうでもいい日々。 喧嘩をしても、知らない女を抱いても、 内が満たされる事は無く。 それでもふたり底まで墜ち、 自ら闇の中へと身を投じて… 気づいたら、昴の心が遠くなった。 (あの、日…) 確か2年前の夏。 リンチにあってボロボロになった昴が、 必死で手を伸ばした先にあったモノ。 同じよう、傷だらけになった奴が、 (…………?) 「お前は、誰に依存してるんだ?」 不良品な自分にも、 隔てなく笑ってくれた円に、なのか? それとも… 「もう分かってんだろう?アイツが2年前からずっと、円を想ってきた事を。」 2年前のあの少年、昴の心変わり。 そうか、 そういうこと、か。 どうりで最初から焦っていた筈だ。 必死に円を隠そうとして。 いつもは無表情で、人形みたいなクセに。 だから、分かり易い。 そこまでして昴が守ろうとするモノ。 心を動かしたモノ。 「晃亮、テメェはあのガキが手にしたモノが欲しかっただけだ。」 俺にはないモノを、昴が持っている。 手に入れた途端、 アイツにとって俺が要らないモノになった気がして… なんだかつまらなくなった。 当たり前だと思っていた。 昴は俺無しでは生きていけない。 幼き頃のまま、互いに寄り添えば。 何も要らなかったあの頃。 「………」 「晃亮!」 置いて行かれる。捨てられる。 俺に罪悪感ばかりを募らせて。 お前が傍にいるなら、それでも良かった。 離れてしまいそうになった時も、 『命令』すれば黙ってついて来た昴。 代償は昴の心。 縋りついていたのは────── 「コースケ!!」 遥が呼び止めようとも止まらない。 大事なは、あの頃と変わらない。 どうすればは、この手に戻ってくるだろうか? 「すばる…」 お前が抱える罪を利用して、命令したら。 お前は円も、捨ててくれるだろうか。 お前がまた傍にいてくれるのなら。 玄関の靴を認め、音もなくお前を目指す。 少し開いた昴の部屋の扉から、 覗き見るように近づけば────… 『すばる』 失くしたモノは、 果たしてだろうか?

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