62 / 88

60

side. Subaru 「いいのかなぁ、ホントに…。」 今まで何度も訪れて、 円サンにとっては辛い記憶しか無い場所。 「やっぱり少しでも家賃を…」 「良いんですよ。元々うちと晃亮の親が、厄介払いに買って寄越した物だから。」 この位は甘えても罪にはならないと思う。 その分の代償は、払ったんだから…。 「なんか、ヘンな感じだね…。」 「そう、ですね…。」 晃亮は、もういない。 どういった経緯かは謎だったが… 遥サンのご厚意で、彼が住むマンションで一緒に住まないかって話になり…。 一番驚いたのは、それを晃亮自らの意思で… 彼の元へ行くと告げたことだった。 誰よりも晃亮を理解している身としては、 他人に全てを任せる事に、些か不安もあったが… 『心配すんなって。俺ならアイツが暴走してもへーきだから。』 …と、遥サンがさらりと言ってのけたので。 全て委ねる事にした。 もしかしたら、その方が良いのかもしれない。 俺だと止めるどころか、晃亮を野放しにしてしまい。 結局何も、してやれなかったから…。 ようやく自分で歩き始めた晃亮に、 少しだけ、寂しい気持ちも抱いたけど。 いつまでもこのままじゃ、何も変わらない。 だったらこの決断は俺にも、晃亮にとっても… もしかしたら、プラスになるのかもしれない。 「新婚さんってさ、こんな感じなのかなぁ…?」 「しっ…」 ソファに並んで座る円サンの発言に、 思わず言葉を詰まらせる俺。 目線だけで見上げる円サンの頬は、 ほんのり赤らんでいて… 俺も釣られて、顔が熱くなってしまう。 「やっぱ、オレが奥さんかなぁ…。」 「じゃあ、俺が旦那ですか?」 自然と手を伸ばし、指で頬をなぞる。 「んっ…でもオレ、何にも出来ないんだよ?」 料理はぶきっちょだから、作ることさえ儘ならないし?機械音痴だから、洗濯機とかいっつも誤作動しちゃう…。 掃除すると必ずすっ転んだりして。 余計散らかすからって、母さんからは全力で止められるから──… と…自ら語っておいて、 しょんぼり背を丸めてしまった円サン。 なんだか可愛い。 「ううっ…こんなダメ嫁でいいのかな~…?」 真剣に悩み出す円サンに、つい吹き出してしまうと。 もうっ…と頬を膨らませて怒ってしまった。 でもやっぱり可愛い。 「いいですよ、俺が全部やりますから。」 「えっ、でも…」 「これでもかなり器用なんですよ、俺。今まではずっと、ひとりで家事をやってましたから。」 「それじゃあ、昴クンがお嫁さんみたいだね…。」 そうですね…と耳元に近づいて。 吐息をわざと吹き掛ける。 (ベッドの上以外でなら、それで構いませんよ…?) 「ッ…!…う、うんっ…。」 半分冗談だったけど。 予想外にも円サンは素直に受け入れていた。 ここから始まる新生活。 幸せ過ぎてまだ、実感は湧かないけど… 「ね、ねぇ…昴クン…」 くいっとシャツを引かれて。 「…少し早いですけど、行きますか?」 恥ずかしそうに円サンが頷いたのを認め───… 「ひゃっ…!」 勢い良く抱き上げる。 (寝不足にさせても大丈夫ですか…?) 意地悪くそう囁いたら。 「…昴クンも、ね…」 艶っぽく返し、キスをせがむから… 迷うことなく愛しい貴方の言葉ごと、 その唇を塞いだ。 今度こそ誓います。 何があってもこの身を賭して、貴方を守り抜いてみせるから… いつまでも、その笑顔。 どうか絶やさずに、 俺の隣り、ありのままの貴方で───… …end.

ともだちにシェアしよう!