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「どうぞ。円サンが…俺の最初のお客様ですよ?」 悩殺スマイルで、 ソーサーに乗せたカップを差し出す昴クン。 「あっ、うん!ありがとう。」 珈琲色のウエイター服に身を包んだ昴クンは、 喫茶店のマスターみたいにスッゴク様になってるものだから。 オレの心臓はずっとバクバクいっちゃってて… ホント無自覚ってズルいよね…。 「じゃあ、いただきます…」 受け取ったカップに口を付け、 琥珀色に揺れるソレをひと口啜ると… ふわりと独特な香りが、口の中に広がる。 「苦くありませんか?」 不安そうに見つめてくる昴クンに、オレはうんと頷いて。 「オレ、コーヒーにはミルクと砂糖入れなきゃ飲めなかったんだけど…これならそのままでも飲めるし、スッゴく飲み易くて…美味しいよ!」 本音を零し絶賛すれば。 昴クンは安心したよう、ニッコリと微笑んだ。 「良かった…円サンでも飲めるようにと、豆を選んだんですよ。」 オレなんかの為に、こんなにも尽くしてくれてたなんて…勿体無くてしょうがないけどさ。 今回の事を教訓に、ひとりでウジウジしないって自分にも昴クンにも誓ったから… ここは素直に、その優しさを受け取ろうと思う。 「ありがとう…オレ、スッゴく幸せ者だよ…。」 決して甘いだけじゃない。 恋をするって、ホント難しくて切なくて… 好きだけじゃどうにもならない事ばっかで。 時にめげそうになるけど…でもね。 「なら、俺はもっと幸せ者ですね…。」 貴方の傍にいられる事が、何よりの幸福。 それで貴方が笑ってくれるのならば本望なのだと… まっすぐな愛情を、オレだけに注いでくれるから… 「ね…昴クン……」 少しだけ自惚れてもいいかなって、 辺りを見渡してから、おねだりしてみると… オレの心を見透かしたかのように、 一度目を見開いた昴クン。 「ん……」 だけどすぐに愛おしげな笑みを湛えて。 ゆっくりと綺麗なその顔を、オレへと近付けてくれた… ちゅっと軽く触れると、 痺れるくらいにほろ苦いのに。 なんだか甘いや… 「あ──────!!アイツらっっ…!!」 「ハイハイ、土屋は黙ろうね~。」 それはまるで、キミとオレとの関係みたいで。 時に甘く溶かし、 魅惑の香りでオレを惑わす。 キミを想うと、たまに苦しくなるけれど。 それでもずっと味わっていたい… そんな甘美な関係。 「…やっぱ仕事中は、まずかったかなっ…」 「俺はいつだって構いませんよ?」 毎日が刺激的。 初めてすれ違って辛かったりもしたけど… 前よりもっとキミに近付けたなら。 ちょっぴり苦い珈琲味の恋だって、 捨てたもんじゃないのかも…なんて ね…? …Happy end.

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