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第一章・5

「お父様、ったら。もう僕に、結婚をしろと?」  やっと高校を卒業したばかりなのに、と麻衣は呆れた。  しかし、早乙女家の窮状は、末っ子の麻衣も知っている。 「そうと決まれば、頑張ってお金持ちとお近づきにならなくちゃ」  自分が金満家と結婚すれば、家の危機を乗り越えられるのだ。  そんな風に、麻衣はただ単純に。  少年らしい、真っ直ぐな気持ちで若者の中に分け入って行った。 「こんばんは。初めまして、僕は……」  笑顔で、数名の男女が集まっているグループの中に、麻衣は入ろうとした。  しかしその時、どよめきが会場を沸かせた。  麻衣の方を向いた若者たちも、目を離してしまう。 (一体、何が?)  戸惑いながらも麻衣は、彼らの視線の先に現れた人間の方を向いた。  そして、息を飲んだ。  長身に、黒のフォーマルを纏ったその姿。  だが、これだけ大勢の着飾った人間の中にいるというのに、圧倒的な存在感だ。  理知的な中にも、どこか野性味を隠しているような面立ちの男性が、そこにいた。 「皆様、楽しんでおいででしょうか?」  心地よい低音が、響く。  麻衣は思わず、彼に向けて拍手をしていた。  拍手は周囲に伝染し、やがて広間全体を波のように広がった。 (すごく、素敵な人。誰だろう!?)  麻衣が目を離せなくなった人間こそ、このパーティーの主催者・飛鳥 響也(あすか きょうや)だった。

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