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第二章 青髭公
宴のただなかに、颯爽と現れた響也。
人々と挨拶を交わし、談笑を始める彼から、麻衣は目が離せなくなっていた。
傍にいた男性に、そっと小声で訊いてみる。
「あの、すみません。あの方は? お名前を、ご存じですか?」
「彼が今夜の主催者。飛鳥 響也さんだよ」
頬を染め、興奮した面持ちの麻衣を、男性は微笑ましく見ていた。
「確かに今宵の宴は、マッチング・パーティーだけど。一番パートナー選びに一生懸命なのは、彼さ」
「どういうことでしょう。飛鳥さまは、独身でいらっしゃるんですか?」
それには、二人の話を傍で聞いていた女性が声をひそめた。
「婚約破棄経験があられるのよ。3回、いえ、4回だったかしら?」
「そんなに!?」
驚いた麻衣に、声が大きい、とでも言うように、女性は唇に指を当てて見せた。
「恐ろしいニックネームで、呼ばれているわ。『青髭公』と」
「そんな怖い人には、見えませんけど」
青髭公、とは、海外の昔話に登場する、嫁いできた妻を次々と殺害する男のことだ。
「確かに、婚約者を殺しはしないけれど」
女性は、悲しそうな眼差しで、麻衣を見た。
「婚約して1年の間に子どもができなかったら、女性は離縁させられるのよ。一方的に」
「そんな」
笑顔を振りまく、響也
そんな彼を見ながら、麻衣はとても信じられなかった。
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