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第二章・4

(しかし……)  響也は、麻衣に目を奪われた。  彼の父親に、無理やり見せられたスナップ写真で、顔は覚えていたが。  実際の麻衣は、輝きがまるで違った。  何という、瞳。  何という、唇。  何という、肌……!  喧噪の中、そこだけがしんと静まり返っているような美が、あった。  まるで、天使が舞い降りて来たかのような。  響也は心の乱れを自覚し、必死で平静を装った。  笑顔を作り、明るく振舞う。  巧みなジョークで、場を盛り上げる。  しかし、そうすればするほど、視野の片隅に入る麻衣のことが気になって仕方がない。  次第に数名の男性が、可憐な麻衣に近寄ってくる。  何を、話している?  なぜ、笑っている?  誰を、見ている?  何、なぜ、誰を……! 「麻衣くん。こちらで一緒に、話さないか?」  ついに響也は、麻衣に声を掛けていた。  

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