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第四章 二人きりになって
とにかく、と麻衣の父親は椅子から立ちあがり、バッグを持った。
「帰るぞ。そうと決まれば、長居は無用だ」
そんな、と麻衣は肩を落とした。
そして響也を想った。
素敵な、人。
初対面の人間に対して、あんな風にときめいたことなど、今までなかった。
「お父様。僕、響也さんに会います」
「何ッ!?」
「もっと、お話ししてみたいんです。あの方と」
麻衣、と父は彼の肩に手を置いた。
「お前は久しぶりの華やかなパーティーに、少し目が眩んだだけだ。忘れなさい」
だが、麻衣も負けてはいない。
お父様は身勝手です、と反論した。
「僕を財力のある方と、結婚させようとしておいて。響也さんなら、ダメだと止めて」
「す、少し声が大きい」
控えの間には、二人以外にも大勢の人がいる。
麻衣の父は、人目を気にした。
そこへ、新たに部屋へ入って来た男がいた。
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