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第五章・2
麻衣は、夜景を眺めて思いをはせた。
(温かな灯火。流れるヘッドライト。その光の一つひとつの元に、人がいる)
その無数の人々の、人生が織りなされている。
(そしてその中に、早乙女の名のもとで、働き暮らしている人もいるんだ)
早乙女家が崩壊すれば、その人々も職を失う。路頭に迷う。
(そんなこと、絶対にさせない!)
「響也さん!」
「な、何だい?」
「僕と、結婚してください!」
「え!?」
頼みます、お願いします、と詰め寄る麻衣から、思わず逃げ腰になる響也だ。
「いや、ちょっと。少し、待ってくれ。そんな、突然に!」
「僕、何でもします。元気な赤ちゃんを産めるように、頑張りますから!」
とにかく、と響也は麻衣をソファに押し付けるようにして座らせた。
「まずは、何か食べないか? 君、お腹がすいているだろう」
「そういえば……」
パーティーの料理が出た時に、響也から手紙を受け取ったのだ。
その内容が内容だっただけに、興奮して何も口にしていない。
「食べよう。ね?」
響也が示すローテーブルの上には、軽食が準備してある。
「はい。いただきます」
麻衣はひとまず、フォークを手にした。
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