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第五章・4
「良かった。私に好意は、持ってくれているんだな」
傍らのグラスを干し、響也は立ち上がった。
「私は、シャワーを浴びて来るよ。終わったら、麻衣くんも使うといい」
「えっ」
「それとも。一緒に、入るかい?」
「いいえ! お先に、どうぞ!」
少し声を立てて笑いながら、響也はリビングルームから出て行った。
麻衣は、響也の言葉の意味を考えた。
『私は、シャワーを浴びて来るよ。終わったら、麻衣くんも使うといい』
「僕にもバスを勧める、ということは」
互いに身を清めた後に、待つものは。
「誘われたのかな、寝室に」
どうしよう。
ただ……。
「ただ。無理やりにでも、一緒にバスルームに連れていかれなかった」
麻衣を逃すまいとするなら、片時も放さないはずだ。
響也は、麻衣に逃げ道を残してくれているのだ。
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