24 / 230

第五章・5

 麻衣は、ふと父の言葉を思い出した。 『飛鳥さんとの面談が済んだら、私の部屋へ戻っておいで』  お父様が、待ってくれている。  そう。  響也さんがバスを使っている間に、こっそりと抜け出すんだ。 「会ったその日に、同衾するなんて。やっぱり、それは、ちょっと……」  でも。  響也さんがバスルームから出て来た時、僕の姿が消えていたら。 「少し、ガッカリしてくださるかな……?」  ソファを立ったり、座ったり。  バスルームの方をのぞき込んだり、もう一度夜景を眺めてみたり。  時間をかけて、麻衣は迷った。  考えた。  そして、出した答えは。 「そうだ。隠れてみよう!」  身を隠し、響也さんが少しでもガッカリしてくれたら。 「そうしたら、出て行って。そして……」  僕は、初めてを彼に捧げよう!  本人は名案と思い込んでいるところが、たちが悪い。  それでも麻衣は、胸をドキドキさせながら、クローゼットに身を隠した。  その胸の鼓動も、隠してしまった。

ともだちにシェアしよう!