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第六章 麻衣の決心
バスタイムを終えた響也は、さっぱりとしてリビングへと戻って来た。
だが、そこに麻衣の姿がない。
「麻衣くん?」
少し歩いて、いくつか部屋を覗いてみたが、彼をどこにも見つけることはできなかった。
再びリビングへと戻り、響也は軽く息をついた。
「逃げてしまった、か」
ローテーブルの上に手を伸ばし、グラスへ美酒を注ぐ。
一口飲んだが、先ほどまでの芳醇な味はしなかった。
傍に掛け、ひとときを過ごした、麻衣の笑顔。
その笑顔の主は、もうここにはいないのだ。
酒が無味になるのも、仕方が無かった。
「なぜだろう。やけに、酔いたい気分だ」
グラスを手にしたまま、響也は窓に近づいた。
美しい、夜景。
それもまた、色あせて見える。
『彼らを救うためには、響也さんと結婚して。そして、経済的な支援をしていただく他ないんです』
あんなことを、麻衣に言わせてしまった。
意地悪な言葉遊びなどせずに、ただ素直に。
「夜景が美しい。それだけで良かったんだ」
今度は少し、大きな溜息が出る。
酒をあおり、グラスを空にしてしまうと、響也は歩きソファに掛けた。
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