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第六章・2

 完全防音の施された、静かな部屋に、モルトウイスキーを注ぐ音だけが静かに響く。  そう、響也は思っていた。  だがしかし。 「ぅん?」  とっさに彼は、振り向いた。  背後から、物音の気配を感じたのだ。  だが、そこには音を立てるようなものは、何もない。  クローゼットが、口を結んでいるだけだ。 「妙だな」  気のせいか、と響也はグラスを口にした。  一気に干し、テーブルの上にその美しいクリスタルを置く。  グラスと氷が、調和のとれたハーモニーを奏でたその時に。 『……くしゅん』  は、と響也は素早く背後を見た。 「確かに今、音が」  しかも、くしゃみのような音が。  よく目を凝らしてクローゼットを見ると、閉じた扉の一部に衣服の端が挟まっていた。

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