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第六章・3

 クローゼットから可愛らしくはみ出した衣服の端は、あの素敵に明るいグレーのスーツ。  曇っていた響也の顔は、一気に晴れた。 (そこに隠れていたのか、麻衣!)  だが彼は、ただ無理に暴こうとはせず、小さな咳ばらいを一つこぼした。  そして、麻衣に聞こえるように声を張って、独り言を語り始めた。 「麻衣。素敵な少年だった。彼は私に恋をした、と言ってくれたが……」  そこでわざとらしく、天を仰ぎ見る。 「それは、私だって同じだ。パーティーで顔を合わせた時、この胸は激しく高鳴った!」  腕を広げて突き上げ、しばし動きを止める。  その後、ゆっくりと振り向いた。  そこには、そっとクローゼットの中から出て来た麻衣の姿があった。 「響也さん。少し、大げさ過ぎます」 「出て来てくれたか、麻衣」  照れて、下を向いてしまう麻衣が、可愛い。  彼は、響也の演技を悪くは言わなかった。 「……でも、嬉しいです。とても」 「私の気持ちだけは、嘘ではないよ」  はい、と答えた後、麻衣は歩き始めた。 「どこへ行くんだ?」 「僕も、シャワーを使ってきます」  そのまま振り向きもせず、バスルームへ消えてしまった麻衣だ。 「……と、言うことは」  響也の頬は、自然に緩んだ。  麻衣は、その身を私に任せる気になってくれたのだ!  そう思って、喜んだ。

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