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第六章・5
「来たね、麻衣」
いつの間にか響也の呼びかけが『麻衣くん』が、『麻衣』になっている。
それでも、麻衣は嬉しかった。
一歩でも、婚約者に近づけたのではないか、と期待した。
「ここへ、おいで」
豪奢な広いベッドに、響也はくつろいだ様子で横になっている。
そして彼は、そのすぐ隣を軽くぽんぽんと叩いた。
うつむき加減で進み、麻衣は遠慮しながら響也に添い寝した。
「麻衣……」
彼の長い腕が伸び、華奢な体を抱き寄せる。
湯上りの温かな体が重なり、麻衣は身をすくめた。
「ま、待ってください。僕、少し、怖いんです」
初めてなので、と小さな声が、響也の耳を甘くくすぐった。
恥じらう仕草が、かえってエロティックだ。
久々に熱い昂ぶりを覚えながら、響也は麻衣に口づけた。
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