30 / 230
第七章 子羊のように?
響也から贈られたキスは、すぐに終わった。
短い、可愛らしい口づけ。
これは、ほんの挨拶代わりだ。
初めてだ、と伝えて震える麻衣を、荒々しく蹂躙するほど、響也は飢えてはいなかった。
「キスも、初めて?」
「はい……」
「どう? 初めてのキスは」
「……素敵、でした」
過去形で言わないで欲しい、と響也は二度目のキスをした。
「今夜は、何度でも。素敵なキスを、しよう」
響也の色気と包容力に、麻衣はのぼせそうだった。
しかし、ここで我を忘れるわけにはいかない。
麻衣は、自分を安売りするつもりは、さらさらなかったのだ。
「待ってください、響也さん。お願いがあります」
「大丈夫。優しくするよ」
そうではなく、と麻衣は響也を正面から見つめた。
「僕と、婚約して欲しいんです。そして、早乙女家に救いの手を、差し伸べて欲しいんです」
何と、と響也は驚いた。
この場この時になっても、まだ地に足を付けているとは。
「約束してください」
麻衣のまなざしは、真剣だった。
ともだちにシェアしよう!