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第八章・3

 公道を走り終わり、麻衣を乗せた高級車は飛鳥家の私道に入っていた。  広大な敷地を、どのくらい長く進んだだろうか。  ちらりと見えた尖塔に、麻衣は目を輝かせた。 「あ! 今、見えました。あそこが、響也さんのお屋敷ですね!」 「いいえ。あちらに見えますのは、飛鳥家の御当主。つまり、響也さまのお父上のお住まいです」 「えっ?」  聞くと、領地には離れ離れにいくつも屋敷が立っており、それぞれに響也の両親や兄弟、叔父や叔母が住んでいるということだ。 「響也さまは、東の邸宅にお住まいなのです」 「そうですか……」  すぐにでも、響也の両親に紹介してもらえると思っていたが、そういうわけにはいかなさそうだ。  それでも延々と走った後に、岩倉から窓の外を示された時には、胸が弾んだ麻衣だ。 「あそこに、響也さんがお待ちなんですね!」 「いいえ。響也さまは、本日海外出張からお戻りです。今の時刻は、専用機でフライトしておいででしょう」 「そんな……」  ようやく自動車が止まり、警護の人間に守られながら降り立ったが、麻衣は肩を落とした。  出迎えに並んでいる、大勢の使用人たち。  彼らを従えて待ってくれていると思い込んでいた響也の姿は、本当に見当たらなかったのだ。

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