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第八章・4

 深々と一礼した後で、麻衣を見る使用人たちのまなざしは、決して笑ってはいなかった。   『この方が、響也さまの新しい婚約者』 『零落寸前の、早乙女家からいらしたと聞くが』 『資産目当てで、響也さまに近づいたのかしら』 『なんにせよ、今度こそご懐妊を』  このような、様々な色の目で、麻衣は見られていた。 (ああ、どうしよう。僕、不安だよ)  何より、ここに響也がいないことが、麻衣にはひどくこたえた。 『待っていたよ、麻衣。よく来てくれたね』  そんな温かな声を掛け、両手を広げて待っていてくれると思っていたのに。 「どうぞ、こちらへ。麻衣さまのお部屋へ、ご案内いたします」 「あ、はい」  執事の岩倉に伴われ、麻衣は響也の豪邸に足を踏み入れた。  面白いことに、外観は時代がかった優美な洋館だが、ひとたび中に入るとそこは近代的なテクノロジーに溢れていた。  防犯カメラやセンサーはもちろん、重いものを運んだり、体の不自由な人が楽に行き来したりできるオートウォーク。  回廊なのに肌寒くない、全館に張り巡らされた空調。  優美な窓に張ってあるガラスは断熱性だけでなく、強度にも優れている。  台風や侵入者を、しっかり防いでくれるのだ。  そこは、邸宅というより、まさに響也の城だった。

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