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第九章・3
ベルをタップすると、その中には岩倉だけでなく、他の名前も登録されていた。
どれも、まだ知らない人たちばかり。
そして、響也の名前は、無い。
切なく疼く胸を押さえてうつむくと、麻衣の脇に猫が丸くなっていた。
「大丈夫。ネコちゃんが、友達になってくれたから」
起こさないように、そっと体をずらし、麻衣は猫に毛布を掛けてあげた。
そして、改めて端末をタップし、岩倉を呼んだ。
『お目覚めですか、麻衣さま』
「はい。毛布を、ありがとうございます」
『今、時刻は18時を回りましたが。お夕食になさいますか?』
麻衣は、考えた。
確かに、そろそろお腹がすいてきている。
だが、その前に。
「響也さんは、もうお帰りですか?」
『はい。たった今、お屋敷にご到着されました』
麻衣は、歓喜で思わず声をあげそうになった。
慌ててこらえて、端末を持ち直して、岩倉に訊いた。
「僕、今から響也さんに会えませんか?」
『申し訳ございません。響也さまはこの後、スケジュールが詰まっておいでです』
「え……」
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