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第九章・5
一方、4階・響也のフロアでは、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「そちらには?」
「ダメです。見当たりません」
使用人たちが、必死で探しものをしているのだ。
行方不明は、響也の愛猫。
外に逃げ出した、となると、響也は烈火のごとく怒るだろう。
使用人たちの焦りも知らず、バスタイムを済ませた響也は、食前酒のグラスを手にした。
美酒を嗜みながら、執事の服部(はっとり)に、留守中の出来事を報告させていた。
「安藤様よりゴルフのお誘い、大塚様よりパーティーの招待状、島様よりフルーツの御届け物が、ございました」
「うん、解った」
「そして。本日、早乙女様の御子息・麻衣さまが当館にお越しに……」
「なぜ、それを早く言わない!?」
響也は、思わず立ち上がっていた。
(麻衣。ついに、来てくれたのか。私の元へ!)
彼の愛らしい顔が、胸にすぐ浮かんできた。
その声が、耳に甦ってきた。
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