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第十章・3
「もしかして、僕から響也さんの匂いがしたのかも」
「うん。だが、それより」
それより、麻衣の心根をすぐに見抜いたのかもしれないな。
そう、響也は言った。
「聡明で、ウィットに富んでいて。素直で、愉快で、そして優しい」
響也は、翡翠ごと麻衣を抱き寄せた。
「き、響也さん」
「麻衣。私の素敵な婚約者。わが家へ、ようこそ」
ドアの前には、執事の服部が控えている。
麻衣は、身をよじった。
「どうした?」
「恥ずかしいです……」
そんな仕草も、響也にとっては魅力的だ。
「麻衣は、シャイなんだな」
そっと体を離して笑顔になると、彼の膝に座る猫に呼びかけた。
「翡翠。お前は今夜、麻衣の傍で寝るのかい?」
「……」
返事がない。
「おかしいな。私の声に応じないとは」
今度は、麻衣が話しかけた。
「ミドリ。響也さんのお部屋に、戻らなくてもいいの?」
「ニャァ」
参ったな、と響也は頭を掻いた。
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