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第十二章・3
「まぁ、確かに麻衣くんは責任を持って、診るけれどね」
そこで哲郎は、眼鏡のフレームに触れた。
「赤ちゃんを授かるには、一人じゃ無理だ。響也、お前がもっとしっかりしなきゃな」
「私は、ちゃんとしっかりしている。今だって、ほら。麻衣を案じて、ここまでやって来た」
スケジュールを変更してまで、麻衣の様子をうかがいに来たのだ。
しかし哲郎は、それを鼻で笑った。
「今は、確かにそうだ。だが、今後一年間、それが続くかな?」
哲郎は椅子に掛け、麻衣にも座るように促した。
憤る響也は放っておいて、ただ麻衣に話しかけた。
「実は、前任の医師から、引継ぎをしてもらってね」
「前任の、って。僕の前に、婚約者としていらした方の、お医者様ですか?」
「そう。彼女は、しっかり仕事をしていた。もちろん、婚約者の令嬢も」
彼女らは二人三脚で、何とか子宝に恵まれようと努力した。
妊娠しやすい体作りに専念し、禁酒、禁煙、禁カフェインも実行した。
おりものの変化をチェックし、排卵日予測検査薬を使って、排卵日を事前に予測した。
女性には、体のサイクルがある。
一般的に排卵日の1〜2日前が、最も妊娠しやすいと言われているので、基礎体温を毎日測って、タイミングを響也に伝えた。
「そんな涙ぐましい努力も、そこの愚か者のおかげで、全て水の泡だ」
「響也さん、ですか?」
「君の前にいた、令嬢だけじゃない。おそらく、過去の数名の女性がみんな、同じ辛い目にあった」
一体、何が。
「ハッキリ言おう。子どもに恵まれなかったのは、響也のせいだ」
哲郎は麻衣に向かってそう言ったが、傍らで聞いていた響也は声を張って反論した。
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