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第十三章・2
やがて、紅葉に負けないほど鮮やかな、緋色の野点傘と毛氈が目に入って来た。
品のよい和装姿の女性が待っており、静かに茶をたてる。
菓子は、秋らしい栗ようかん。
甘みを抑え、栗本来の味を大切に作ってあった。
「とっても、美味しいです」
「いかにも、秋という風情だな」
響也に続き、麻衣は女性から茶碗を受け取った。
温かみのある白地に、可愛らしい小菊の描かれた、厚い深めの冬茶碗。
麻衣は作法に従って、自然な所作で茶をいただいた。
「素敵なお茶碗ですね」
「この先に、その茶碗に似た小菊がたくさん咲いておりましたよ」
ぜひ、足をお運びください、と女性は微笑んだ。
見てみたいな、と麻衣は素直に思った。
もちろん、響也と一緒に。
(でも、響也さんには、この後お仕事があるし)
「見に行こうか、麻衣」
「響也さん?」
視線は紅葉を見上げたまま、響也は言った。
「こんなにくつろいだのは、久しぶりだ」
微笑む響也の表情は自然で、無理に作ったものではなかった。
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