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第十四章・4

 着替えた麻衣を訪ねて来たのは、シンプルなルームウェア姿の響也だった。 「パジャマの麻衣を見るのは、初めてだ。新鮮だな」 「僕だって、こんなにカジュアルな響也さん、初めて見ました」  自然な仕草で響也は麻衣の体を軽く抱き寄せ、額にキスをした。 「何か、飲むかい?」 「い、いいえ。響也さんは、いかがですか?」  おでこのキスで、すでにドキドキしている麻衣だ。 「僕はまだ飲酒ができない年齢なのに、お酒がたくさん置いてあるんです」  リビングのチェストに並んだ洋酒を、麻衣は指した。 「ニャァ」 「そこにいたのか、ミドリ」  猫は、チェストの上で、大人しく香箱座りをしている。 「あそこが、お気に入りの場所みたいです」 「すっかり麻衣の部屋に、居着いてしまったなぁ」  響也は頭を掻いて、微笑んだ。  その、横顔。  麻衣は、響也の優しい表情に、安心した。 (やっぱり。僕は、響也さんのことが大好き)  そして、彼になら喜んで、初めてを捧げることができる。  横顔だった響也が、こちらを向いた。 「寝室へ……、いいかい?」 「はい。こっちです」  麻衣は、この屋敷に来て初めて、人の前を歩いた。  響也を伴って、寝室へと歩いた。

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