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第十六章・2
「全部、挿入ったよ」
「あ……」
響也の額から、汗が一筋流れた。
その汗が、麻衣の頬に落ちる。
そこには、すでに一粒の水滴があった。
涙だ。
麻衣は、赤く染まった頬に、涙をこぼしていた。
「どうした。痛かったのか? 大丈夫か?」
「大丈夫です。ただ……」
「ただ?」
響也は、麻衣に顔を近づけ、耳をそばだてた。
その声を聞き漏らすまいと、すました。
痛みや違和感を訴えたとなると、大変だ。
後膣が裂けて、出血しているかもしれない。
だが麻衣は、そういったことではない、と言った。
「ただ、嬉しくて。嬉しいんです、僕」
麻衣は瞼を閉じたまま、自分の白い腹を撫でた。
「解るんです。ここに、響也さんが来てくれてる、ってことが」
あなたと一つになれて、本当に嬉しい。
そんな麻衣の訴えに、響也はこれまでに味わったことのない歓喜を覚えた。
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