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第十九章・3

 響也の兄である孝弥は、飛鳥家の長男だ。  一族をまとめる父の傍らで、いずれはその後を継ぐ準備をしている。  そんな彼は以前から、身内だけのささやかなクリスマスパーティーを開いていた。  年が明け、新年になると、それぞれが何かと忙しく、ゆっくり語らう時間もない。  だから、せめてクリスマスに家族が集まり、団らんのひとときを過ごしたい。  長兄らしい、しっかりとした。  それでいて、思いやりのある考えだった。  しかし、響也は幼い頃から、そんな兄に反発ばかりしてきた。  次男の特性、と言ってしまえばそれまでだが、服部にとっては悩みの種の一つだ。 (今年こそ、何としてでもパーティーに出席していただきますぞ!)  こほん、と一つ咳ばらいをし、執事は響也に意見した。 「今年の響也さまはこれまでと違うところを、孝弥さまを始め、ご一族の皆様に御示しになっては?」 「何だ、それは」  きょとんとしている響也に、服部は満面の笑みで応えた。 「麻衣さま、でございます。あのように素晴らしいお方とご婚約なさったことを、ご報告しなければ」 「麻衣、か……」  響也は、つい考えてしまった。  美しい麻衣を華麗に装わせて、パーティーに出席し……。 「自慢したいな。麻衣を、お兄様に」 「その調子でございます!」  まんまと服部の策に乗せられ、響也は初めて招待状に出席と返事を出した。

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