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第十九章・5
「麻衣は、クリスマスが好きなのか?」
「ええ。早乙女の家では、賑やかに飾っていましたから」
そうか、と響也は考えた。
麻衣がこの屋敷に来て、間もなく一ヶ月になろうとしている。
少し、実家が恋しくなる頃なのだろう。
「麻衣がそう言うなら、ここもクリスマスらしくしようか」
「えっ?」
「実は、兄からクリスマスパーティーの招待状が届いてな」
麻衣にもぜひ、同伴して欲しい、と響也は打ち明けた。
「いきなりクリスマスの中へ飛び込むのは、何だから。この屋敷もそれらしい装飾をして、心の準備といこう」
「いいんですか!?」
目を輝かせた麻衣は、実に嬉しそうだ。
「岩倉と相談して、麻衣がデコレーションの指揮を執ってくれ」
「はい!」
活き活きと弾み始めた麻衣の頭に、哲郎が赤い帽子を乗せた。
「良かったな、麻衣くん」
「ありがとうございます、哲郎先生」
仲の良さそうな二人に、プチ嫉妬な響也だ。
「麻衣には、そんな変な帽子ではなく。もっと贅を尽くした装いを準備しよう」
そう言って、麻衣の頭から帽子を取って、自分に被せた。
「き、響也さん……!」
「どうした、麻衣」
「か、可愛い、です……!」
哲郎が明るく笑い、響也は困った顔をした。
だが、悪い気はしない。
サンタ帽を被ったまま、響也は照れ笑いをこぼした。
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