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第ニ十章・2

(麻衣は、今回も子どもを授からないのかな……)  彼を抱くのは、もう数回に及ぶ。  ただ、いつもがいつも、妊娠に適した時期、というわけではないのだ。  今夜もまた、確率は低いと哲郎に言われている。  だが、響也は麻衣を求めた。  そうせざるを得ない衝動が、突き上げたのだ。 「響也さん」 「ん? あぁ、何だい」 「今度は、僕が体を拭いてあげます」 「ありがとう、頼むよ」  響也の逞しい体を、麻衣は懸命に拭いてくれた。  仕上げに優しいキスを交わし、二人はベッドに横たわった。  穏やかに髪を梳く響也に、麻衣は声を掛けた。 「今夜は……」  言いかけて、やめた。 「ごめんなさい。何でもありません」 「どうしたんだ? 変な麻衣だな」  今夜は、朝まで一緒にいてくれますか?  そう言いかけて、やめた麻衣。  無理なことは、解っている。  響也を困らせることも、したくない。 (この後、響也さんはお仕事があるんだから)  我がままを言っては、ダメ。  それでもわずかな望みを胸に、彼の袖をしっかりと握って眠った。

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