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第ニ十章・5
「響也の健康状態は、悪化の一路をたどっている。これは、麻衣くんがこの屋敷に来てからのことだ」
ただし麻衣のせいではない、と釘を刺した後、哲郎は続けた。
「お前は麻衣くんと過ごすために、規則正しいスケジュールを変更し続けた。食事をカット、睡眠時間をカット、ジムでのトレーニングをカット」
こんな滅茶苦茶な生活を続ける限り、近いうちに体を壊す。
「そうしたらもう、赤ちゃんが欲しい、なんて全くの高望みになるぞ」
どれもが全く正論だ。
言い返せずにいる響也に、今度は服部がいさめ始めた。
「ですが、響也さま。打つ手はございます。思いきったスケジュール改革を、お考え下さい」
「スケジュール改革?」
「そうでございます。この際、全ての執務からお離れになって、麻衣さまとのお時間こそを、大切になさいませ」
この大胆な意見には、さすがの響也も口をぱくぱくさせた。
「ば、バカな! 私が仕事を手放すと、経営はどうなる!」
「響也さまが一年ほど離れられるだけで、回らなくなるような会社ではございません」
ぐう、と唸った響也は、岩倉の方を見た。
後に残るは、彼だけだ。
(麻衣の専属執事・岩倉。彼は、どんなことを言い出すのやら!?)
挑戦的に目を光らせ、来るなら来いと身構えた響也だったが、岩倉は落ち着いていた。
ただ、涙が一筋、その頬を伝っていた。
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