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第二十一章 響也の努力が始まった

 何も言わずに、ただ涙を流す岩倉に、麻衣が心配そうな声を掛けた。 「岩倉さん、大丈夫ですか?」  うなずき、彼はようやく響也に向けて口を開いた。 「響也さま。麻衣さまは、お優しいでしょう? わたくしにさえ、このようなお声掛けをくださいます」  ですが、と岩倉はさらに悲痛な表情になった。 「ですが、このお優しい麻衣さまは今、極度のストレスにさらされておいでです」 「何だって?」  響也は、怪訝に感じた。  昨日は、楽しく一緒にクリスマスツリーを飾り付けた。  その晩は、寝室で深く愛し合った。 「麻衣は、いつも笑顔で私に接してくれる。ストレスなど……」 「お考えが甘いですな、響也さま」  岩倉は、麻衣を苦しめるストレッサーについて、語った。  一年以内に子どもができなければ、この屋敷から出されてしまうこと。  それは、響也との別れでもあること。  そんな響也は、仕事仕事でなかなか会いに来てはくれないこと。 「これらは全て、響也さま。あなた様が原因なのです」 「麻衣にストレスを与え続けているのは、この私……!」  響也は、その事実にようやく気付かされた。

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