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第二十一章・3

 このような騒動の後も、響也は変わらず仕事中心の日々を送っていた。  ただ、以前のように食事や睡眠時間を削るような真似は、しない。 「朝食は、麻衣と一緒に摂ろうと思ってね」  こんな具合に、自分の食事をワゴンに乗せて、麻衣のダイニングルームに運ばせる。 「麻衣。一緒に寝ようか」  セックスレスでも、枕を並べて同じベッドで眠る。 「何だ。麻衣はいつも、ミドリと寝てるのか?」 「いつの間にか、ベッドに入って来てるんですよ」  ミドリを真ん中に、川の字になって眠りながら、響也は今後について考えていた。 「子どもは、欲しいさ。だが、麻衣に負担をかけるような真似は、したくないな……」  先に寝入ってしまった麻衣の髪を撫でながら、そんなことを思うようになっていた。 「仕事から離れて、妊活を、か……」  ただ、はいそうですかと部下に執務を丸投げするわけには、いかない。  響也と同程度の判断力、決定権を持つ人間に、頼る必要がある。  そして、そのような人物に心当たりは、あるのだ。 「孝弥お兄様、か」  これまで、何かと反発してきた、飛鳥の長兄。  その彼に頼るのは、響也としては断腸の思いだ。 「どうしようか、麻衣」  すやすやと眠る麻衣に、問いかける。  そんな夜を、響也は何度も過ごした。

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