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第二十二章・3

 今現在、響也は30歳、兄の孝弥は35歳。  その年の差は、5年だ。  幼い頃から、響也は孝弥をライバル視していた。  5歳の差など、越えられると考えていた。 「だけど、ね。何をやっても、お兄様には敵わないんだよ。スポーツも、芸術も、学業も」  孝弥が負け続ける響也を、バカにすれば、まだ救いはあった。  絶対的な差は、どうあがいても埋まらない。  そう、言い放ってくれれば、ここまで意固地にはならなかった。 「お兄様は、敵わないのに挑戦を続ける私に、とても優しかった。いつも、受け止めてくれたんだ」  優しくされればされるほど、響也の劣等感は募っていったのだ。  成人し、飛鳥グループの会社をそれぞれ任されれば、兄の業績を越えようと必死で働いた。  仕事仕事と、働き続けた。 「でも。どんなに頑張っても、飛鳥家の跡継ぎは長兄のお兄様と決まっている」  それに気づき、くじけそうになった時、孝弥の妻が出産した。  女の子だった。 「愚かな私は、その時に考えたんだ。私は無理でも、私の子どもが男の子だったら、と」  女児を二人授かった、孝弥。  ここで響也が結婚し、男の子を設ければ、その子は飛鳥家の当主になれる。  ようやく、兄を見返すことができる。 「だから私は、今度は早く子どもが欲しくなった。飛鳥家の跡継ぎにするために、ね」  そのために、優秀なアルファ女性の令嬢と、婚約とその破棄を繰り返した。  焦る響也は、一年経っても身ごもらない女性は見限ったのだ。

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