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第二十三章・4
「哲郎のやつ、まだこの車に乗っているのか」
「クラシックな雰囲気が、ありますね」
学生時代に父から譲り受けたというブルーバードは、今でも哲郎の愛車だ。
古い型だが、ピカピカに磨いてあるし、内装もきれいだ。
ナビシートに掛けて、ベルトを着けた麻衣は、響也に恐る恐る訊いてみた。
「響也さん。この車、マニュアルですね……?」
「え?」
言われて初めて気が付く、響也だ。
「大丈夫、ですか?」
「いや、なに。久々に運転席に座ったから、勝手がつかめなかっただけだ」
安心して、と響也は微笑んだ。
確かに普段は、運転手任せの足だが、自分で転がすことくらいできる。
「以前はドライブが好きで、遠出をしたこともあるんだよ」
「じゃあ、お任せします」
そして響也の言う通り、ブルーバードは滑るように走り始めた。
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