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第二十三章・5
慣れてくると、周囲が見えるようになってきた、響也だ。
運転しながら片手探りでオーディオを操作すると、ご機嫌なジャズが流れてきた。
「素敵な曲です」
「麻衣は、ジャズは好きかい?」
「はい。あまり詳しくはないんですけど」
「そのうち二人で、ジャズバーに行こう。生演奏が楽しめるぞ」
「いいですね」
しかし、バーと言うからには、アルコールが提供されるのだろう。
麻衣が飲酒できるには、あと1年と3ヶ月ほどかかる。
(1年以上、先。だよね)
僕が20歳になった時、周りはどんな環境なんだろう。
響也の間に子どもができれば、彼とずっと一緒にいられる。
だが、そうでない時は……。
「麻衣、どうかしたのか?」
「え? いえ、あの、なぜですか?」
「ずっと、黙っているので」
「ごめんなさい。少し、考え事をしていました」
麻衣は、軽く頭を振った。
考えても、仕方がない。
それより、この今を大切にするんだ。
「僕、とても幸せです」
「えっ?」
「隣に、響也さんがいてくださるから」
不安は振り払い、麻衣は笑顔を見せた。
響也も、笑顔を返してくれた。
私も幸せだ、と言ってくれた。
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