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第二十七章・2
自動車で飛鳥家の領地を走り、やがて車窓から見覚えのある尖塔がうかがえた。
「あそこが、響也さんのお父様とお母様がお住まいの、邸宅ですね」
「知っているのかい?」
「初めてこちらに来た時に、響也さんのお屋敷と勘違いしちゃったんです」
「なるほど」
着いた先は、さすがに本家だけあって、響也や孝弥の屋敷より一回り大きな邸宅だった。
いや、これはもう、邸宅や屋敷には収まらない、御殿だ。
麻衣は、いまさらながら飛鳥家の強大さを感じ取った。
面白いことに、外観は壮麗だが、一歩中へ足を踏み入れると、そこには心安らぐ落ち着きの空間があった。
まるでホテルのエントランスのように、広々とした玄関ホールは、大掛かりな装花で彩られている。
それは新年らしく、縁起物の松竹梅がシンプルにあしらってあった。
回廊には西洋画ではなく、書の作品や水墨画が飾られている。
麻衣がまるで美術館でも観覧するように歩いていると、ようやく響也が歩みを止めた。
「麻衣。私の両親を、紹介するよ」
使用人によって重厚な両開きのドアが開けられると、そこは採光の良い広いリビングだった。
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