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第二十七章・4
好意的な両親の様子に、響也は油断していた。
笑顔で麻衣とのなれそめや、彼との惚気話を無防備に喋っていた。
しかしそれが、母の一言に凍りついた。
「それで。麻衣くんにはもう、お腹に赤ちゃんがいるのよね?」
「えっ」
麻衣が困る前に、響也は自ら語った。
「妊娠は、まだです。ですが、私はこの一年間執務を休んで、彼と共に妊活に励みます」
その話も、孝弥から聞いていた、と父親は笑顔だ。
「ずいぶん思いきったじゃないか。響也にしては、上出来だ」
友好的な父に反して、母は厳しかった。
優しい笑みは絶やさないまま、核心を突いてきた。
「では、一年経っても懐妊しなかったら。響也、麻衣くんとはお別れね」
「お母様、それは……!」
「できません、とは言わせませんよ? これは、あなた自身のけじめです」
けじめ、とオウム返しで呆然とする響也に、母はぴしゃりと叩きつけた。
「これまで、何人の女性を使い捨てて来たのです? 一年で妊娠しなければ離縁する、と決めたのは、響也ではありませんか」
厳しい妻の言葉に、壱郎は手を伸ばしてひらひらさせた。
「まあまあ、そこまで意固地にならなくても。たった一年じゃないか」
「女の一年を、男と一緒にしないでください」
妙齢の女性の貴重な時間を、響也は奪っては踏みにじって来たのだ、と母は言う。
響也は、返す言葉もなかった。
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