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第二十八章・3
おせち料理をいただき、響也と美酒を酌み交わした勝雄は、すっかり上機嫌で立ち上がった。
「麻衣、歌いなさい!」
「お父様、恥ずかしいです!」
何を言うか、と勝雄はリビングの角に据えてある、ピアノへと歩んだ。
「新春恒例の、麻衣の歌声を聴かないと、年が明けた気がしないよ」
赤くなっている麻衣に、響也は問いかけた。
「新年に、歌を披露する慣習があるのか?」
「か、慣習だなんて、大層なことじゃありませんけど……」
麻衣がまだ幼い頃、祖父母を喜ばせようと、幼稚園で学んだ曲を歌ったことが始まりだった。
「それ以来、何だかお決まりになってしまって」
「私も聴いてみたいな。麻衣の歌声を」
そんな会話をするうちに、勝雄はピアノで流麗に前奏を弾き出した。
「し、仕方ないなぁ。もう!」
麻衣は慌ててソファから立ち上がると、歌い始めた。
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