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第二十九章・2

「こんばんは、麻衣です。今朝は、ありがとうございました」 『こちらこそ。訪ねてくださって、ありがとう。とても楽しかったわ』  響也の母・凛子の声は、明るく朗らかだ。  麻衣は、心の中でホッとしていた。 『こんな時刻に。しかも傍に響也がいない時を狙って、お電話を差し上げる非礼を許してね』 「いいえ。僕だけに、特別なお話しがあられるのですか?」 『さすが、聡明でいらっしゃるわ』  その通りだ、と凛子は麻衣に、まず本家での刺々しい物言いを謝った。  一年で子どもができなければ、響也と麻衣は別れねばならない、と放ったことだ。 『あれは、響也を戒めて。覚悟を決めさせるための、言葉です。麻衣くんを苛めるものでは、ないのよ』 「そうだったんですね」 『わたくしも、壱郎さんも。麻衣くんを、響也にはもったいないくらいの人だと思っています』 「いえ、そんな」  褒められて悪い気はしないが、凛子の話しはそこで終わりではなかった。

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