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第三十章・3
電車の中で、にこにこと駅弁を食べ。
レンタカーで、ごとごとと山道に揺られ。
響也と麻衣は、秘湯の隠れ宿に到着した。
国内はもとより、海外からもセレブが集う、人気の旅館……。
……の、裏の、旧館に二人は案内された。
「は?」
「響也さん、これ……」
それは木造の、明らかに古びた建物だ。
「話が違うぞ。支配人を呼べ!」
「落ち着いて、響也さん!」
麻衣にたしなめられた響也が、宿の支配人に聞くところによると。
「新館の予約状況によっては、旧館にご案内します、との但し書きに、お客様はイエスとお答えになられて!」
「そ! ……う、だった。かな?」
何せ、麻衣に頼られて有頂天になっていた時のことだ。
うっかり、勢いでクリックしてしまったのだろう。
「新館に宿泊する客と交渉して、変わってもらおうか」
どうする? といった表情で、響也は麻衣を見た。
「でも、響也さん。この旧館も、趣があっていいですよ」
古民家といった風情の建築は、確かに心を和ませる。
内装はちゃんとリフォームしてありますので、と言う支配人の言葉もあって、二人はそのまま旧館に泊ることにした。
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