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第三十章・4
「いらっしゃいませ。どうぞ、おくつろぎください」
笑顔の優しい、和装の老婦人が、二人を客間へ案内してくれた。
板張りの廊下は、古いがピカピカに磨かれている。
和室の畳は新しいのか、青く良い香りがする。
床の間には、梅の花が描かれた掛け軸が掛けてあった。
「裏山には、梅林がございます。今、きれいに咲いておりますよ」
煎茶を淹れながら、婦人が教えてくれた。
「あなたが、この旅館の女将ですか?」
響也の問いかけに、婦人はうなずいた。
「ええ、まあ。たまに見えるお客様のために、掃除や炊事などを、させてもらっています」
「女将自ら、清掃や賄いを?」
「新館の方が忙しくて、手が足りませんの」
ゆったりと笑う婦人に、響也も麻衣も、ほっこりとした気分になった。
彼女が部屋から出て行った後、二人で足を崩して語り合った。
「新館よりこちらの方が、落ち着けるのかもしれないな」
「時間が、ゆっくり流れてるような気がします」
広縁から外を眺めると、間近に山々が望める。
静かな中に、鳥の声が聞こえる。
素敵な宿で良かった、と二人は微笑み合った。
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