149 / 230

第三十章・5

 せっかく教えてもらったので、まずは裏山の梅を観に行ってみた。  まだ季節は早いが、温暖な気候のせいか、すでに満開の木もある。 「いい香りがしますね」 「桜とは、また違う魅力があるな」  小ぶりの花の、白梅。  清楚で、可憐だ。 (まるで、麻衣のようだな)  響也の頬は、自然とほころんだ。  だが、近寄ってよく見ると、ほのかに紅がさしている。 「これは……」 「何ですか、響也さん」 「い、いや。何でもない」  麻衣の素肌を連想し、響也は一人で照れていた。  真っ白い肌をうっすらと紅に染めて、甘い吐息をこぼす、麻衣……。  次第に響也は、充血してくる心地を味わっていた。 「麻衣。温泉に入ろう!」 「ええっ? 今、梅園に来たばかりですよ!?」  もう少し梅を観たいと、ごねる麻衣だ。 「梅園には、また後で来てもいいから!」  まさか、梅の花を見て、麻衣の裸を見たくなった、とは言えない響也だ。  名残惜しく何度も振り返る麻衣の背中を、押すことが精いっぱいだった。

ともだちにシェアしよう!