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第三十一章 君があんまり素敵だから
梅園での眺めは、素晴らしかった。
もう少し、その中で梅の美しさを、香りを味わいたかったが、響也に無理やり温泉へと連れてこられた、麻衣だ。
(どうして、急に。温泉は、逃げては行かないのに)
不審に感じながらも、麻衣は響也に声を掛けた。
「響也さん。温泉、お先にどうぞ」
「何を言ってるんだ、麻衣」
一緒に入るんだよ!
熱のこもった響也の言葉に、麻衣は怯んだ。
「で、でも。これまで一緒に、お風呂に入ったことなんか……」
「だから。今、ここで!」
彼の熱意に負けて、麻衣は浴衣と丹前を用意した。
客室の広縁から庭に降り、玉砂利の敷かれた上に置かれた飛び石に従って、奥へ進む。
木戸を開けると、そこに湯煙の露天風呂が現れた。
「わあ、すごい!」
浴槽は、ダイナミックな自然石で囲まれている。
目隠しには、たおやかな竹がさらさらと揺れている。
麻衣は、目を輝かせて喜んだ。
「素敵ですね、響也さん!」
だが響也は、口をぽかんと開けている。
「何てことだ……」
「えっ?」
温泉の湯が、乳白色だったのだ。
「これでは、湯に浸かった麻衣の素肌が見えないじゃないか!」
「響也さん!?」
まさかの言葉に、麻衣は赤くなった。
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