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第三十二章 春の嵐

 3月に入り、響也はやけに張り切っていた。 「麻衣のバースディ・パーティーは、盛大に執り行うぞ!」  屋敷中を、ピカピカに磨き上げ。  花いっぱいに、飾り。  ディナーのメニューは、綿密に。  来るべきハレの日に向けて、大忙しだ。  しかし、当の本人・麻衣は浮かない顔をしていた。 「ご家族中に、招待状を送ってくださったんです。早乙女の方にも」 「結構じゃないか」  麻衣の目の前には、彼の担当医である哲郎が、マグカップ片手に掛けている。  身体面だけでなく、精神面の健康も重視している哲郎だ。  こうして麻衣の相談相手になることも、しばしばだった。 「響也さんが、僕を大切に想ってくださっているのは、解るんです。ただ……」 「ただ?」  そこで、口ごもる麻衣だ。 「まだ、……、って言ってくださらなくて」 「? 聞こえなかった。もう一回」 「……」  全身を耳にして、哲哉が聞いた言葉は。 「愛してる、かぁ」 「はい……」  麻衣は、少し頬を染めた。

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