155 / 230
第三十二章 春の嵐
3月に入り、響也はやけに張り切っていた。
「麻衣のバースディ・パーティーは、盛大に執り行うぞ!」
屋敷中を、ピカピカに磨き上げ。
花いっぱいに、飾り。
ディナーのメニューは、綿密に。
来るべきハレの日に向けて、大忙しだ。
しかし、当の本人・麻衣は浮かない顔をしていた。
「ご家族中に、招待状を送ってくださったんです。早乙女の方にも」
「結構じゃないか」
麻衣の目の前には、彼の担当医である哲郎が、マグカップ片手に掛けている。
身体面だけでなく、精神面の健康も重視している哲郎だ。
こうして麻衣の相談相手になることも、しばしばだった。
「響也さんが、僕を大切に想ってくださっているのは、解るんです。ただ……」
「ただ?」
そこで、口ごもる麻衣だ。
「まだ、……、って言ってくださらなくて」
「? 聞こえなかった。もう一回」
「……」
全身を耳にして、哲哉が聞いた言葉は。
「愛してる、かぁ」
「はい……」
麻衣は、少し頬を染めた。
ともだちにシェアしよう!