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第三十二章・5
「麻衣は今、どこかな?」
ポケットから端末を取り出し、響也は麻衣アプリをタップした。
同じ屋根の下にはいるのだが、何せ広すぎる。
居場所を聞いた方が、早いというものだ。
数回のコールの後、声が聞こえて来た。
しかしそれは、鈴を振るような愛らしい麻衣の声ではない。
非常に慌てた風の、執事・岩倉のものだった。
「もしもし。麻衣ではないのか?」
『響也さま! 麻衣さまは今、わたくしのすぐ傍においでです。ですが!』
「何かあったのか。慌てて、どうした?」
『麻衣さまが、急に倒れられて!』
意識の朦朧とした麻衣のポケットからコール音がしたので、岩倉が代わりに応答したのだ。
いや、それより。
響也は、岩倉以上に慌てた。
「哲郎を、いや、救急車を呼べ!」
麻衣が倒れている現場に走りながら、響也は胃を掴まれ捩じられている心地を覚えていた。
それは、生まれて初めて味わう、激しい焦燥感だった。
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