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第三十三章 愛してるよ
本当に、申し訳ない!
何度も頭を下げる哲郎に、麻衣は微笑みかけた。
「そんなにもう、謝らないでください。僕は、大丈夫ですから」
だが、ベッドの上で咳込む麻衣の笑顔は、弱弱しい。
彼は、インフルエンザ患者になってしまったのだ。
朝、麻衣くんと話をした時に、異常に気付くべきだった、と哲郎は反省している。
「でも。朝は、何ともなかったんですよ? 午後になってから、急に体がだるくなって」
そして、高熱を発して、その場にうずくまってしまった。
幸い、執事の岩倉が傍にいたので、すぐに対処することができたのだ。
響也の命令通り救急車を呼んで、搬送先の病院で困惑されたが。
「インフルエンザとはいえ、侮れないぞ。脳炎や、肺炎になる危険性がある!」
そう言って、響也は麻衣を入院させようとしたが、丁重に断られた。
慣れた屋敷でゆっくり療養したい、と言う麻衣の願いもあって、今は彼を寝室に寝かせているところだ。
「館に勤める人間に蔓延したら、大変だ。麻衣の看病は、この私が一人で行う」
「響也さま!?」
驚く岩倉を尻目に、響也は当然のように述べた。
「妊活で戦力外になっている私なら、もし罹患しても誰にも迷惑はかけないだろう?」
それでいいだろう、と哲郎がうなずいた。
「麻衣くんに異常が見られたら、すぐに俺を呼んでくれ」
「解った」
こうして、響也の看病が始まった。
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