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第三十三章・3
夜、0時を回ったころに、響也は眠っている麻衣に、そっとささやいた。
「ハッピーバースデー、麻衣」
日付が変わり、麻衣の誕生日がやって来たのだ。
だが彼は、額に汗をにじませて、眠るばかり。
「可哀想に」
その汗をタオルで拭きとり、響也は考えた。
「できることなら、代わってやりたい」
こうして一緒にいるというのに、響也は一向にインフルエンザにかかる気配がない。
アルファの、丈夫な体質のおかげだ。
おそらく免疫力も、オメガの麻衣より強いのだろう。
「いや、待てよ」
そう言えば……。
「風邪は誰かにうつすと、早く治ると聞いたことがある」
以前の響也なら。
普段の響也なら。
そんな話は迷信だ、と鼻で笑うところだ。
だが、今の響也は違っていた。
最愛の麻衣が、高熱に苦しんでいるのだ。
藁にもすがる、思いだった。
「頼む。これで、治ってくれ。私へ、うつっていいから」
響也はベッドに身を乗り出し、麻衣の唇に口づけをした。
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