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第三十三章・4
静かな、だが長く温かなキス。
麻衣は、朦朧とした意識でそれを受け取った。
「響也、さん……」
「すまない。起こしてしまったんだな」
「ダメ、ですよ。風邪、うつっちゃいます……」
いたずらを咎めるように、麻衣は薄く笑った。
そんな彼が、響也には愛おしかった。
熱でふらふらなのに、私への心配が先に立つのか。
もう一度、今度は短いキスをした。
「14日になったよ。お誕生日、おめでとう」
「嬉しい、な。お祝いの、キス、だったんですね……」
「そうだ、お祝いだ。麻衣、生まれて来てくれて、ありがとう」
そして、その熱い頬に、手のひらを当てた。
「本当に、君の存在は。ああ、何と表現すればいいのか」
そうする間にも、麻衣の瞼は落ちてくる。
また、夢とうつつの境を旅しに、行ってしまう。
響也は、それを引き留めはしなかった。
睡眠は、回復のために大切な要素だ。
ただ、その間際にでも、言っておきたい言葉はあった。
「愛してる。愛してるよ、麻衣」
その小さな手を握り、心の底から訴えた。
麻衣の唇が、かすかに動いたような気がした。
聞こえたのか。
響也の言葉は、届いたのか。
解らない。
解らないが、麻衣の寝顔は穏やかだった。
微笑みながら、眠りに落ちたようだった。
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