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第三十三章・5

「36.5℃。平熱だ!」  翌朝、麻衣は久々にすっきりと目覚めた。  ベッドサイドには響也が掛けて、電子体温計を嬉しそうに眺めている。 「僕、もう大丈夫です。響也さん、本当にありがとうございます」 「いや、油断してはいけない。午後になると、また熱が上がるかも」  しかし麻衣は、ベッドから起き出そうとしている。 「本当に、大丈夫ですから」 「待て。待ってくれ。せめて、哲郎に診察してもらおう」  それまでは、寝ていなさい。  慌て、うろたえる響也だ。  そんな彼に、麻衣は素敵な笑顔を見せた。 「僕、響也さんに魔法の呪文をかけていただきましたから!」 「魔法? 呪文?」  もしかしたら、夢かもしれないんですけど。  そんな前置きをして、麻衣は少し声をひそめた。 「愛してる、って。言ってくれましたよね? 昨夜」 「聞こえていたのか、麻衣。覚えていたのか」 「ああ、やっぱり夢じゃなかった!」  夢なんかじゃないとも、と響也は麻衣の体に、長い腕をまわした。 「誕生日おめでとう、麻衣。……愛してるよ」 「僕もです、響也さん。愛してます」  抱きしめる麻衣は、もう病的な熱を持ってはいなかった。  ただ、喜びにあふれる温かさで、響也を包んだ。

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