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第三十四章 桜咲く

 春。  桜の季節が、やって来た。  飛鳥家の領地には川が流れており、その両岸に桜並木を造ってある。  時期を見計らって、響也は花見の宴を開いた。  3月に、麻衣の誕生会を中止したこともあり、両家の親族を招いての、賑やかな宴だ。  川に船を浮かべて、低速でゆるりと進む。  右を見ても左を見ても、美しい桜でいっぱいだ。  重箱をいくつも用意し、贅沢な春の幸を詰め込んだ。 「さあ、どうぞ。早乙女さん、もう一杯」 「これはどうも。あ、奥様も、一献いかがです?」 「ありがとうございます。いただきますわ」  響也の両親、麻衣の父はもちろん、兄弟や、その子どもたちも楽しく親睦を深めた。  殊に、麻衣の兄姉たちは、可愛い弟が楽しそうに笑っている姿を、喜んだ。 「早乙女家のためとはいえ、あの『青髭公』の元へ行ったと聞いた時には、心配したけれど」 「幸せそうで、良かった!」 「響也さんも、以前パーティーで何度かお見かけした時と、印象がまるで違うわ」  この方になら、麻衣を安心して任せられる。  そんな会話も、生まれていた。

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